WAR
〜中央アフリカ共和国の争いの記憶〜

毎日のように銃弾が飛び交い、至るところから悲鳴が聞こえる……。
みなさんが想像する「戦地」は、このようなものではないだろうか。
そして、戦地と化した場所には、安らぐ場所も時間も存在せず、
そこには暴徒となって心すら見失った人ばかりがいる……
みなさんは、戦地となった国々にそんなイメージを持っているのではないだろうか。
少なくても僕も、実際に訪れるまではそんな風に考えていた。
しかし、多くの場合、戦争下であっても戦闘は国の中のごく一部の地域で起こるもので、
それは四六時中、続いているものでもない。

中央アフリカ共和国は、2019年11月現在も内戦下にあり、
国連が指定する非常事態国4か国のひとつに指定されている。
2013年3月、イスラム教徒を中心とする武装勢力連合「セレカ(Seleka)」が首都バンギを制圧し、
フランソワ・ボジゼ大統領(当時)を失脚させた。
これに対して、キリスト教徒を中心としたボジゼ氏を支持する民兵組織「アンチバラカ(anti-balaka)」が台頭し、
イスラム教徒に復讐。
以降、双方が報復合戦を繰り広げ、虐殺、レイプ、略奪が続く。

アフリカで起こる戦争は、日本はもとより欧米のメディアが取り上げることがほとんどないことから、
「忘れ去られた戦争」と呼ばれる。
中央アフリカ共和国は、ノルウェー難民評議会(NRC:The Norwegian Refugee Council)の報告書の中で、
「世界で最も無視される危機」のワースト1位に選ばれている。
危機の収束に向けた政治的意思の欠如、メディアの関心の欠如、支援の欠如という観点から測定されたものだ。
2013年の内戦開始以来、2017年5月末までの間、中央アフリカ共和国では約48万人が国外に逃れ、
それに国内避難民などを足すと、合計約98万人が避難生活を余儀なくされている。
でも、世界的にそのことは、ほとんど知られていない。
僕は2017年から、中央アフリカ共和国で撮影を重ねるようになった。

人々が、戦地に対して決まり切ったイメージを持ってしまうのは、メディアの伝え方によるところが大きい。
悲惨なシーンだけ報じたり、傷ついた人々だけを切り取りそればかりを繰り返し伝えたりすることで、
あたかもそれがその国の全てかのように、見る者を錯覚させてしまう。

アフリカ各地の戦地には、争い傷つき怯えて暮らしている人々がいるが、
当たり前だけど、そこには人々の日常生活がある。
家族の営みがあり、兄弟喧嘩があり、友だちに泣かされたり仲直りしたりしている。
恋人同士で一緒に綺麗な夕焼けを見て笑顔にもなるし、愛の囁きだってある。

戦地に住む人々の日常に想いを寄せることができたら、どこか知らない遠くの国のことのように、
そして、私たちには関係ないことのように、放っておくことはできないだろう。
そんなことを考え、僕はこの地を撮り続けている。

Photograph by Hiroshi Aoki