Mr.Richard
〜民兵組織カリスマリーダーの肖像〜
リチャードという男

中央アフリカ共和国で1人の男と出会った。
彼はキリスト系民兵組織アンチバラカを束ねるカリスマリーダー、リチャード。

当時、イスラム系武装組織「セレカ」の支配下だったこの国でキリスト教徒の彼らは迫害を受けていた。
リチャードの村も他の地域と同じようにセレカに襲われ、命からがら逃げ込んだ彼は森の中からたった1人で立ち上がり、
この国をセレカの支配から解放する為に武器を持って立ち上がった。
そんなリチャードの元に賛同した仲間たちが集い、民兵組織「アンチバラカ」を結成し戦い続けた。
彼と彼らの部隊は勝利を重ね、首都バンギを含む西側のセレカに支配されていた地域を解放していった。
首都バンギを解放したそのすぐ後に大統領からの直々の願いを受ける。
「この国の未来のために、平和のために武器を手放してほしい」
リチャードは武装解除を受け入れた。今も続く激しい内戦の中で彼と彼の部隊は武器を置いた。

僕はそんなリチャードと撮影者と被写体という関係で出会った。
出会ったばかりの彼は全くと言っていいほど心を開いてくれることもなく、鋭い眼つきであからさまに嫌な顔をした。
カメラの前に立ってもらうことすらも困難だった。
この国の混乱が自分たちだけの問題ではなく、他の諸外国の利益の為に続いていることを彼は知っていたから。
自分のことしか考えない外国人の力になることを彼は拒んでいた。
僕はそんな彼の不思議な魅力に惹かれ、どうしても彼を取材し撮影したいと思うようになっていった。
何度も僕の想いを伝えた。僕が一体何を伝えたいのか。
そして日本人ならきっとリチャードやこの国の人たちの苦しみを理解できると。
次第に彼は僕に心を開いてくれるようになった。
取材対象者というよりいつのまにか僕らは「ともだち」になっていた。

ある日、彼は全てを僕に話してくれた。
内戦が起こる前の暮らしのこと。
セレカに襲われて家も家族も財産も全て失ったこと。悲しみの真っ暗な闇をさまよい続けたこと。
そしてジャングルの森の中でたった1人で戦う決意をしたこと。まだ続く戦いの中で武装解除を受け入れたこと。
それらは今まで周りの仲間たちにも話した事のなかった彼自身の想像を絶する過去だった。

Photograph by Hiroshi Aoki